間違いだらけの酒常識 -4-

間違いだらけの酒常識

間違いだらけの酒常識

第四話 良い酒は、冷やで飲むべし?

■温度変われば味変わる
 酒はお燗して飲むのが当たり前、という時代が長くありました。しかし酒業界にとって、お燗が前提というのは、冬はいいけれども暑い夏には苦しい。そこで、夏でも酒を飲んでもらうために、さまざまな努力をしました。その努力が実を結んだのが「生酒」でした。その後保冷流通が普及し、生酒は、夏場に需要が落ち込む日本酒業界における救世主のように思われたのです。
 日本酒業界は、「お燗=オジサンくさい」といったイメージを払拭するためにも、フレッシュな生酒を冷やして飲む、というさわやかさを、ここぞとばかりに前面に押し出しました。酒造組合を挙げて“ジャパナマ・キャンペーン(生酒を冷やして、グラスで飲もう)”なども行なわれました。
 そうした動きと連動して、「本当の酒の通は、冷やで飲むものだ」、「良い酒をお燗するのはもったいない」などというおかしな理屈が広まっていったのです。
 飲むときの酒の温度は好みの問題も大きいので、ご自由にお楽しみいただければよいことです。ただ、食べもの、飲みものは、すべて温度によって味の感じ方が変わります。そして、一般的に日本酒は、冷たくするよりも温かくする方がその魅力を発揮しやすいのです。なぜかと言えば、温めたときに感じやすくなる旨味成分の割合が、他の酒類と比べても断然多いからです。したがって、本来の、酒らしい酒ならば、キンキンに冷やして飲むことの方がもったいない(味を感じにくいので)、と私などは思います。

■「冷や」は常温
 酒を冷蔵することが普及したがために、もうひとつ間違った常識が生まれました。それは、冷蔵庫で冷やした酒を「冷や」と言うようになったことです。本来、酒の「冷や」とは常温のことです。昔、燗をつけて飲むのが普通だった頃、お燗酒に対して、そのままの酒を「冷や」と呼んだのです。冷蔵庫なんて、最近のものですから。
 第三話でお話したように、酒質を変化させたくないなら、冷蔵庫に入れるのはひとつの方法でしょう。しかし、その温度は保存のためのものではあっても、飲むために最適な温度とは違います。
 ところが、冷蔵庫に入れることが酒の管理だとされるようになってからというもの、飲みに行って酒を注文すると、冷蔵庫で冷やした酒をそのまま注がれることが多くなりました。「冷酒」のメニューには銘酒がズラリと並んでいるのに、「燗酒」に銘柄はなく、ただ「お燗酒」としか書かれていないなどということも珍しくありません。そんなお店で、「冷酒」欄の銘柄をお燗してもらえるか訊くと、「デリケートな酒だから、お燗なんてできない」と怒られる始末です。

■ひと手間かける温かさ
 温めて飲むと旨いというのは、日本酒の特筆すべき美点です。お燗して旨くなることを「燗上がり」と言います。燗上がりすることが、酒らしい酒の第一の条件だと私は考えています。つまり、お燗をつけたくらいで崩れるのは、デリケートというよりも、過保護に育てられた“甘ちゃん”か、酒としてあるべき何かが欠けている(あるいは、余分なものが加わっている)かだと思います。
 ファストフード世代には、お燗をつけるという手間が敬遠されました。しかし、ひと手間かけるということこそが食文化の基本です。お燗をつけ、地場の旬の食材(高価なものという意味ではありません)を料理して食べることは、生活を豊かにする「スローフード」の最たるものではないでしょうか。
 いつも“冷や”しか飲まれない方も、是非一度、“お燗”に挑戦していただきたいと存じます。いつもと違う味わいを感じられるはずです。そして食べものと合わせても“冷や”とは異なる相性を見せてくれることでしょう。
 また、一概に「ぬる燗に限る」といったものでもありません。神経質になる必要はないのです。ぬる燗(40℃近辺*1)、熱燗(50℃近辺*2)と味の感じ方も変わりますし、一旦熱燗にして冷ましたのが旨いという酒もあります。合わせる料理によっても適温は異なります。それに、厳密に温度を合わせたつもりでも、盃に注ぐだけで温度は下がりますし、飲んでいるうちに徳利の中の酒だって段々冷めていきますので。
 真っ当な酒なら、どんな温度でもそれぞれの美味しさがあります。ですから、あまり難しく考えずに、冷やから熱燗、燗冷ましまで、いろんな温度でお試しいただければと思います。そのうちに自分の好みの温度もわかってきますし、酒の楽しみが広がるに違いありません。

【注】燗温度の呼称に対する具体的な温度は
   *1・*2とも、一酒庵で追記したものです

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