間違いだらけの酒常識 -2-

間違いだらけの酒常識

間違いだらけの酒常識

第二話 酒は、新しければ新しいほど良い? その一

■古酒の味をご存じないのね
 お客様から、「酒は、どのくらいの期間なら品質を保てるのか」とよく尋ねられます。また、「酒をずっと置いておくと酢になる」、「早く飲まなければ酒が腐る」と心配している方もいらっしやることでしょう。
 あまり知られていないことですが、実は、酒に賞味期限はありません。生酒や生詰めの酒以外の商品は、瓶詰め時に火入れという加熱殺菌(牛乳などで言うところの「低温殺菌」)をしてあります。つまり、きちんと処理されていれば無菌状態です。酢になったり、腐ったりというのは酢酸菌や乳酸菌の仕業なので、開栓しない限り、まず安心です。また生酒についても、冷蔵さえしておけば、何ヶ月か程度でおかしくなる可能性は非常に低い、と思っていただいて結構です(ただし、最近流行の、度数が低い(=15度未満)商品は要注意!)。
 さて、日本酒が方向を誤ってきた点はいくつもありますが、その一つが熟成についてです。本来、酒を「造る」工程には「熟成」も含まれているはずなのですが、特に生酒が商品化されてからというもの、フレッシュさばかりが重視され、熟成は軽んじられるようになりました。
 酒の審査や品評会などにおいても、「老香(ひねか=熟成が進むにしたがって出てくる特有の香り)」は欠点として指摘され、「古い」イコール「良くない」というイメージが定着しています。
 しかし、世界中のどんな酒でも、熟成タイプほど珍重され、高級な扱いを受けます。ウイスキーやブランデーなど、蒸留酒のラベルに「**years old」などと誇らしく書いてあるのは、みなさんもよくご存知でしょう。醸造酒においても、ワインは言わずもがな、ビールでさえ、イギリスのエールやスタウト、ベルギーのトラピストビールなどには、何年も寝かせるタイプもありますし、お隣の中国には、その名も「老酒(ラオチュウ)」という酒があり、古さに価値が置かれています。

■ウーン、寝(かせ)てみたい
 熟成している酒の中では、さまざまな化学・物理反応が実にゆっくりと進んでいます。その現象についてはかなり研究されていますが、解明しきれない部分もまだまだ残されています。酒とは、それほど複雑な、まさに“生きもの”なのです。
 一般的には、熟成させると、当然ながらフレッシュさは失われる反面、味の角が取れ、まろやかになります。また、旨味も乗ってきて、味に奥行きと幅を感じられるようになります。色は濃くなり、熟成香や老香が出てきますが、これは好みの分かれるところです。
 どんな酒にも共通して言えることですけれど、寝かせた酒の味がまろやかになるのは、時間をかけて熟成する間に、酒の中のアルコールが、水など他の成分と結合することによって、刺激が少なくなるからです。それは、体内への吸収もゆっくりで、酔い心地もおだやかになりやすいということです。つまり熟成酒は、より身体にやさしい酒だとも言えましょう。
 実は、日本酒にも長い年月(5年〜30年)熟成させた古酒はあり、積極的にそういう酒ばかり商品化している蔵もあります。しかし、世間での古酒の認知度はまだかなり低く、それに比例してか、熟成についての理解が広まっているとは言い難いのが現状です。そんな風潮から、“酒は、新しければ新しいほど良い”という誤解が生じているのかもしれません。
 古酒までいかなくても、数ヶ月寝かせるだけで酒の味は変わります。昔は、冬に什込み、春に搾った新酒を桶に囲って封印し、夏を越すまでは寝かせました。ひと夏越して酒が旨くなることを「秋上がり」と言いますが、杜氏は「秋上がり」を目標に酒を造っていたのです。このように、熟成によって味が深まり、それを季節感とともに味わえるのも、日本酒ならではの楽しみです。
 確かに、搾りたての新鮮な酒にも捨て難い魅力があります。しかし、「新酒を味わうだけでは、本当の酒の味を知ったことにはならない」と言っても差し支えないでしょう。熟成した酒の深い味わいこそは、若い酒には持ち得ない、酒本来の醍醐味だと思います。少し女性には失礼ですけれど、古来「酒は古酒、女は年増」という言葉があるくらいです。この場合の古酒とは、何年も寝かせたものではなく、夏を越した酒のことですが、昔の人には、熟成の重要性がよくわかっていたのではないでしょうか。女性のことはともかく、酒が熟成することによって真価を発揮するという意味では、現代にも通じる言葉だと思います。

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